夢を捨てた俺に忘れない夏が来たpart4

   

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夢を捨てた俺に忘れない夏が来たpart1夢を捨てた俺に忘れない夏が来たpart3

433: 1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/ 2015/11/10(火) 22:35:29.00 ID:bbahwOnm.net
俺は、次の日も奈央の部活に行った。
もう顧問の先生の姿はなく、俺と3年生が中心になって練習をすすめた。

管理ということで、バスケ部の先生が体育館の管理室に居てくれた。
半面は、バスケ部の男子が使っていたのだ。

434: 1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/ 2015/11/10(火) 22:36:36.68 ID:bbahwOnm.net
その日も練習は好調で、
俺のアドバイス一つ一つをひたむきに受け止めてくれるのが、とても嬉しかった。

一人の2年生の子に冗談まじりではあるが「1さんが来てくれてホント助かった!」と言われて、
照れくさくて、でも感激した。
千景、という女の子だった。
ショートカットで淡褐色肌の、元気の良い子だった。
奈央以外で、この子が一番俺に懐いてくれていた。

435: 1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/ 2015/11/10(火) 22:40:53.77 ID:bbahwOnm.net
この部の中にも、段々と溶け込めてきたんだなって実感できた。
このまま夏季大会まで、何もかもが上手くいって、
奈央の部活は大団円を迎えるんだろうな、と思っていた矢先。

大会まであと数日という日に、思わぬ出来事が起こった。

436: 1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/ 2015/11/10(火) 22:43:42.76 ID:bbahwOnm.net
その日俺は、午前中から奈央の部活に行った。
みんなも、俺も、すっかり慣れてきていて、
その日もいつも通りに部活が始まって、問題なく練習が進んでいた。

でも、朝から奈央の様子がちょっと変だな、と感じていた。
もちろん一番最初に部活に来て(奈央はいつもそうだった)
いつも通り精一杯声を上げて頑張っていた。

でも、心なしかいつもより笑顔が少ない気がした。
それを感じ取っていたのは俺だけではなかったらしく、
何となく部活全体に、不安な雰囲気が漂っている気がした。

437: 1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/ 2015/11/10(火) 22:46:37.96 ID:bbahwOnm.net
奈央に笑顔が少ないと、自然とチーム全体の笑顔も減っていく。
今まで、この部の雰囲気を作っていたのは、
奈央の笑顔だったのかもしれない、と俺は感じた。

スパイク練習になると、それはより如実になった。

いつも調子よく決まる奈央のスパイクが、この日は全然決まらなかった。
何度やっても、ネットに引っ掛けてしまった。
奈央自身それが納得できないようで、悔しそうな顔をしては下を向くだけだった。

失敗しても明るい、いつもの奈央ではなかった。
それに呼応してか、他の子たちの調子も良くない方に向いている気がした。

438: 1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/ 2015/11/10(火) 22:51:21.89 ID:bbahwOnm.net
ここまでくると俺も心配になって、スパイク練習の列に並んでいる奈央に声をかけた。
俺「調子悪そうだけど、大丈夫?」

俺がそう言って励まそうとしても、奈央はただ「うん」と言うだけだった。
何かがおかしい。それはもう明らかなことだった。

休憩時間に他の部員に、「奈央は大丈夫?」と聞いてみても、
「今までにあんまりこういうことはなかったです」と動揺していた。
その間も奈央は、体育館のすみに座ってタオルを被り、俯いていた。

459: 1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/ 2015/11/13(金) 02:07:26.27 ID:Rs/OBWCe.net
俺がそれを気にかけていると、例の2年生の千景ちゃんに声をかけられた。

千景「1さんは、花火見に行くんですか!」
俺「え、花火って?」
千景「今日、すぐそこで花火大会があるんですよ。知らないんですか?」

そういえば、おばさんからちらっと聞いていた気がする。
あの家の庭からも見れるんだ、ということを話していた。

460: 1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/ 2015/11/13(金) 02:08:49.81 ID:Rs/OBWCe.net
俺「花火大会って、今日なんだね」
千景「そうですよ!2年はみんなで行くかもなんです」

そう言っていると、他の2年生の子たちも寄ってきて、
「なになに花火?」「でも今日雨降るらしいよー」と話が膨らんでいった。
俺には、なんだかその千景ちゃんの様子が、
無理矢理にこの場の雰囲気を和ませようとしているようにも見えた。

慣例であるレギュラーメンバーの試合形式の練習になっても、
奈央の様子が変わることは一向になかった。
それと比例して、チームの調子もどんどん下向いているような気がした。
俺にはどうしたらいいか分かるはずもなく、
ただ外野から励ますことしかできなかった。

461: 1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/ 2015/11/13(金) 02:10:15.81 ID:Rs/OBWCe.net
楽しかったはずのバレー。こんな時、どうすればいいんだっけ。
俺は、自分の経験を手繰り寄せて考えていた。
でも、俺が今のケガ以外でバレーに手がつかなくなったことはなかった。

だから、奈央の気持ちが分からない。
どうしたらいいのか、全然分からなかった。

462: 1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/ 2015/11/13(金) 02:13:44.22 ID:Rs/OBWCe.net
一生懸命の奈央。バレーが好きな奈央。
俺にもう一度バレーと向き合うきっかけをくれた奈央。
どうにかして助けてやりたい。

でも今の俺には、それに気づいてあげられるだけの力も、経験もないのだ。
部活のコーチだなんて息巻いて、こんな時助けてやれないんじゃ、何の意味もないんだ。
やっぱり、俺にバレーは……

463: 1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/ 2015/11/13(金) 02:17:20.34 ID:Rs/OBWCe.net
そんな事を考えてしまって、体育館のステージに腰掛けていると、
千景ちゃんに声をかけられた。

千景「良かったら、居残り練習付き合ってくれませんか?」
練習が終わって、ほとんどの部員が帰った後だった。
当然、奈央も俺より先に帰っていた。

俺「いいけど、今日はネットの片付けは…」
千景「午後、男バレがそのまま使うんで、立てっぱなしでいいんです」
そう言うと、千景ちゃんはボールを持ってきて、俺の方に投げた。
「お願いします」と言ってにこにこ笑ったので、俺もなんだかほっとした。

464: 1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/ 2015/11/13(金) 02:22:10.93 ID:Rs/OBWCe.net
千景「レシーブ練習がしたいので、テキトーに打ってきてください」
俺「オッケー。あ、でも」
俺「部室、閉まっちゃわない?」
千景「奈央先輩に言って、鍵を預かってるので大丈夫です」
俺「それならいいね」

俺は千景ちゃんに向かって、軽めにボールを打った。
彼女は2年生だけど上手くて、リベロとしてレギュラーになっている。
千景「奈央先輩から、よく1さんの話を聞いてました」
俺「え、どういうこと?」
唐突のことで、俺はちょっとびっくりした。

465: 1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/ 2015/11/13(金) 02:23:40.48 ID:Rs/OBWCe.net
千景「私奈央先輩と仲いいから、よくLINEするんです」
千景「1さんの事も、よく話題に上がるんです」
千景「なんか、楽しそうで」

千景ちゃんはそう言ってくすっと笑った。
その言葉に、俺は胸がいっぱいになったような気がした。

俺「本当に?本当なら…良かった」
千景「何がですか?」
千景ちゃんの問いに俺は少し言葉が詰まったけど、頑張って続けた。
俺「だって、いきなり居候とか言って知らない奴が家に来たら…普通は嫌じゃん」
千景ちゃんは「確かに!」と言って笑った。

466: 1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/ 2015/11/13(金) 02:28:11.48 ID:Rs/OBWCe.net
千景「でも、奈央先輩なら大丈夫ですよ」
千景「すごく優しい人なんで、そういう事は考えないと思います」
千景「逆に、無理矢理部活に誘っちゃって迷惑じゃないかなぁって、すごく気にしてました」

俺もそれを聞いて、思わす笑いがこぼれた。
お互いに、とりこし苦労をしていたということなんだろうか。
俺は先程まで抱えていた不安を、千景ちゃんに話してみようと思った。
何か、この子になら話してもいいように思えた。

俺「奈央は、大丈夫かな。今日、絶対普通じゃなかったよね?」
千景「そうですね…かなり落ち込んでましたね」
俺「俺、何かできることないかな。何も分かんなくてさ…」
俺がそう言うと、千景ちゃんはきょとんとしてこちらを見つめた。

482: 1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/ 2015/11/14(土) 21:49:19.74 ID:zqkbV+tl.net
俺「どうしたの?」
千景「いえ、やっぱり1さんは良い人なんですね」
俺「やっぱりって?」
千景「こっちの話ですw」
ちょっと考えると意味が分かった気がして、なんだか気恥ずかしかった。

千景「奈央先輩、ふられちゃったんです」
千景「だから落ち込んでるんだと思います」
俺「へ?」

千景「これ、先輩には言わないでくださいね…」
俺「うん、もちろん。言わないよ」
千景ちゃんがあまりに突然な事を言い出したので、俺も対応がしどろもどろになった。

483: 1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/ 2015/11/14(土) 21:51:03.80 ID:zqkbV+tl.net
千景「バスケ部の2年生なんですけど…ずっと好きだったみたいで」
俺「え?」
俺「ニシ君じゃないの?」

千景ちゃんは目を丸くして俺の方を見た。
千景「西って…野球部の西先輩ですか?」
千景「どうして西先輩なんですか?」

俺はちょっと困ってしまったが、言葉を振り絞った。
俺「だって試合の時にお守りを…」
千景「お守り?なんでそんな事知ってるんですかw」
千景ちゃんは転がったボールを拾いながら、再び俺の方を見た。

俺「試合の時、俺が車で送ったんだけど…その時に持ってたから」
俺「そうなのかなって思ってた」

484: 1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/ 2015/11/14(土) 21:55:56.71 ID:zqkbV+tl.net
それを聞くと千景ちゃんは合点がいったように「あ~!」と頷いた。
千景「それ、女バレみんなでやったやつですよ」
俺「えー、そうだったの?でもなんで…?」
千景ちゃんは楽しいのか、にやにやしながら話を続けた。

千景「うちらが総体に出た時、偶然野球部の人たちが応援に来てくれて」
千景「そのお返しをしようって、みんなで作ったんですよ」

それを聞いて、体から力が抜けた。
あのお守りは、そういうことだったのか…
勝手に決めつけて、一人で盛り上がっていた自分が何だか恥ずかしい。
そして千景ちゃんは、依然として笑みを浮かべたままだった。

492: 1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/ 2015/11/16(月) 01:33:09.94 ID:FznaLMFr.net
千景「むしろ、西先輩が奈央先輩の事好きだったんですよ」
俺「え、そうなの!?」
千景「告白されて、断ったって言ってました」
千景ちゃんはそう言うと「あれは超驚いたな~w」と笑っていた。
俺はそれを聞いて、呆然としていた。

千景「1さんは校外の人だし、心配してたから色々話しましたけど」
千景「この話、絶対奈央先輩には秘密ですよ」
千景ちゃんの真剣な眼差しが俺を捉えていた。
俺はその念押しに、黙って頷いた。

493: 1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/ 2015/11/16(月) 01:34:26.52 ID:FznaLMFr.net
千景ちゃんの話が全て本当なら、
俺はとんでもないものを拾ってしまったのかもしれない。

ニシ君は、奈央が決して自分を見ていないことを知っていた。
それでもあのお守りを受け取って…どんな気持ちだったのだろう。
あの日、あそこに落ちていたお守りは…もしかしたら本当に。

俺の脳裏に、ヒットを一本も打てず、試合後泣き崩れていたニシ君の姿が蘇った。

494: 1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/ 2015/11/16(月) 01:35:29.36 ID:FznaLMFr.net
正午過ぎの体育館。
全ての窓を開け放していたものの、真夏の暑さで汗が吹き出た。
それでもこの日は曇っていたから、暑さはマシな方だった。
しばらく黙って、レシーブ練習や対人を続けた。

495: 1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/ 2015/11/16(月) 01:37:07.44 ID:FznaLMFr.net
俺「でも、失恋って…どうしてあげたらいいか分からないなぁ」
俺「辛そうだし、何かしてやりたいけど…」
そう言うと、千景ちゃんは真面目な表情になって俺を見た。

千景「無理して考えなくてもいいと思います」
千景「奈央先輩って、あんまり人に弱音を吐かないんです」
千景「今回のことは、私にもあんまり話してくれませんでした」

千景「だから、もしも何か言われたら、その時にちゃんとこたえてあげればいいと思います」
俺はその言葉に何度も頷いた。
何か言おうとしたけど相応しい言葉が思いつかなくて、ただ黙って頷いた。

496: 1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/ 2015/11/16(月) 01:43:54.44 ID:FznaLMFr.net
俺がその沈黙を掻き切ろうと、ボールを構えた瞬間だった。
俺のポケットに入っていたスマホが震えたのを感じた。

早く帰って来て
対人して欲しいから。

俺「…奈央からだ」
千景「え!先輩からですか?」

497: 1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/ 2015/11/16(月) 01:50:50.07 ID:FznaLMFr.net
俺「対人して欲しいから、早く帰って来てって…」
画面を見せると、千景ちゃんも俺も黙ってしまった。
でもすぐに千景ちゃんは俺の顔を見上げて、言った。

千景「こたえてあげてください」

その表情はどこか、少しだけ憂いを帯びていた。
俺は「ああ!」と言い切って走って体育館を出た。

むわっとした湿気を纏った熱気を感じた。一雨来そうな感じだった。
駐輪場の端っこに止めてある自転車にまたがって、
俺は前のめりになってペダルを踏み出した。

498: 1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/ 2015/11/16(月) 02:02:39.61 ID:FznaLMFr.net
制服を来た男子生徒にすれ違う。
校舎の脇を歩く野球部の一団と目が合った。
俺はなりふり構わず、立ちこぎで自転車を思い切り走らせた。

遠くで落雷の音が響いた。その音が、俺の焦燥感を煽った。
奈央が待ってる。あの庭で、奈央が待ってる。
その一心だったのだ。

499: 1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/ 2015/11/16(月) 02:07:41.47 ID:FznaLMFr.net
学校を出て坂道を登る最中、色んな想いが頭の中を駆け巡った。

奈央が落ち込んだり、怒ったり、笑ったりしていたのは、
恋をしていたからなのか。

奈央が朝一で部活に行った時は、いつも隣のコートに男子バスケがいた。
初めて部活に行ったあの日、俺と別々で体育館に入ったのも…
そう考えると、全ての辻褄が合ってくるような気がした。

500: 1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/ 2015/11/16(月) 02:14:09.21 ID:FznaLMFr.net
俺と出会ってから、奈央は沢山の表情を見せてくれた。
でも何故だか、その全てが壊れてしまうような不安を覚えた。

奈央はバレーが大好きな女の子。
俺に、もう一度前を向くきっかけをくれた人。
何がどうなろうと、俺にとってはそれが全てだったのだ。
だから俺は、無我夢中で坂道に向かってペダルを踏み込んだ。

きっと、ボールを持って待っているに違いない。

521: 1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/ 2015/11/18(水) 00:52:49.31 ID:xK8lMwpC.net
家に着く頃には俺は息が上がってしまって、朦朧としていた。
山の方から聞こえてくる蝉の声が、頭の中で反響する。

水道と花壇の間に自転車を立てかけて玄関に走ると、
そこには奈央がボールを抱えて座っていた。
俺は「いた…」と言って膝に手をついて息を整えた。

奈央は驚いた様子で俺を見上げた。
奈央「そんなに急いで来たの…?」
俺「だって、対人したいんでしょ?やろうぜ」

俺はぜえぜえと息を上げたまま答えたが、
自分でも質問の答えにはなってないなって分かった。

522: 1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/ 2015/11/18(水) 01:00:42.37 ID:xK8lMwpC.net
俺は奈央の肩を叩いて「来いよ!」と庭へと誘った。
奈央も「うん…」と申し訳無さそうに立ち上がった。

奈央が打たずにボールを抱えたまま立ち尽くしていたので、
俺は「来い!思いっきり打っていいよ!」と声をかけた。
奈央はそのまま、黙ってこちらを見てボールを打ち込んだ。

523: 1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/ 2015/11/18(水) 01:05:09.40 ID:xK8lMwpC.net
そしてそのまま、会話を交わすこともなく黙々と対人を続けた。
レシーブする。トスが返ってくる。打つ。トスを上げる。レシーブする…

そんなことを何周繰り返した頃だろうか、
ぽつぽつと、雨が降ってきた。
小雨というわけではなく、すぐに勢いのある雨となった。

ただ奈央は、雨が降ってきても対人をやめる素振りは見せなかった。
なので俺も濡れることは気にせず、それに付き合った。

525: 1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/ 2015/11/18(水) 01:11:39.24 ID:xK8lMwpC.net
サアア、と雨の音が辺りを包み、蝉の声が消える。
奈央「あは、やったぁ。これだけ雨が降ったら今日の花火は中止かもね」
不意に奈央がしゃべり始めて、雨の中で力のない笑顔を浮かべた。

俺「まあ、そうかもね。花火、行かないの?」
俺がそう質問しても奈央は答えず、再び黙って対人を始めた。

526: 1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/ 2015/11/18(水) 01:17:46.53 ID:xK8lMwpC.net
奈央は、俺とラリーを続けながら話し始めた。

奈央「1は、花火大会とか行った事あるの」
俺「そりゃあ、あるさ」
奈央「女の子と一緒に?」
俺「それは言いたくないな」

言いたくないというよりも、女の子と一緒に行ったことはなかった。
だが、そんな事を真正直に言うのも気が引けた。

527: 1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/ 2015/11/18(水) 01:21:47.29 ID:xK8lMwpC.net
奈央「私、ふられちゃったの」
突然核心に触れる言葉が飛び出し、俺は動揺を隠せなかった。

俺「そっか…まあ、そういうこともあるよ」
奈央「何それ」
奈央「もっと気の利いた事言えないの?」
俺は何て言えばいいのか分からなかった。

ただでさえ雨の中で対人をしていて、頭が回らなかったのだ。
奈央を助けてやりたい。助けてやりたい!
そして無意識に想いが溢れ出た。

528: 1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/ 2015/11/18(水) 01:24:11.97 ID:xK8lMwpC.net
俺「じゃあ、打ってこい!気が済むまで、思いっきり打ってこい!」
俺「俺が全部キャッチすっから!!」

叩きつける雨の中で、奈央がこちらを見て立ち尽くした。
その姿は、何かに怯えているように見えた。
俺はそれを見て胸が張り裂けそうになった。

俺「大丈夫、俺は絶対ここにいるから」
俺「全部、受け止めるから!」
奈央は黙ってボールを掲げた。そして俺の方に向かって思い切り打ち込んだ。
俺はそのまま奈央が打てるように、高々とレシーブを上げた。

天高くボールが舞い上がり、奈央がそのまま腕を振り下ろす。

529: 1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/ 2015/11/18(水) 01:27:45.32 ID:xK8lMwpC.net
何度も何度も、奈央の渾身のボールを受け止める。
打ち続けるうちに、奈央は鼻をすすり始めた。

そして、打ったかと思うと、ボールを真下に叩きつけた。
奈央はそのまま「うあああ」と声を上げて泣き始めた。
叩きつける雨音の中に、奈央の泣く声が入り混じった。

目の前で、雨に打たれて嗚咽している奈央。
手の甲で何度も何度も顔を拭った。
俺はそれを、唇を噛んで見ていることしかできなかった。

530: 1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/ 2015/11/18(水) 01:30:29.65 ID:xK8lMwpC.net
奈央は泣き続けた。
泣いても泣いてもおさまらないようで、ずっと声を上げて泣いていた。

しばらくして、不意にボールを拾い上げたかと思うと、
そのまま俺に向かって打ち込んできた。
俺は突然のことで反応できず、ボールをはじいてしまった。

531: 1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/ 2015/11/18(水) 01:34:15.19 ID:xK8lMwpC.net
奈央「やった。私の勝ち、だ」
降りしきる雨の中で、奈央は俺に向かって満面の笑顔を見せた。

服も髪も、びしょ濡れになってぐしゃぐしゃの奈央。
けど、その笑顔は俺が今まで出会ってきた中で、飛びきり一番の笑顔だった。

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「奈央」
俺は思わず、奈央の名を呼んだ。

532: 1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/ 2015/11/18(水) 01:37:02.80 ID:xK8lMwpC.net
奈央「へへ、なんかスッキリした」
奈央は両手で目元をこすっていた。

奈央「まだ、悲しいけどね」
俺「そりゃ、そんなすぐには全部忘れられないよ」
奈央「あれ、まるでそういうことがあったっていう口ぶり」

俺はそう言われて「ないよ」と笑った。
奈央の元へと駆け寄り、「風邪ひくから中入ってすぐ着替えな」と言った。
奈央は俺の顔を真っ直ぐに見上げた。

奈央「ありがとね。こんな事に付き合ってくれて」
そう言う奈央の目は真っ赤に充血して、涙が溜まっていた。

533: 1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/ 2015/11/18(水) 01:40:02.87 ID:xK8lMwpC.net
俺「そんな事、気にするなよ。俺はただの居候だしな」
俺がそう言うと、奈央は笑って「そんなことないよ」とつぶやいた。

「なんかめっちゃ鼻水出ちゃったw」
「きたねえな、顔も洗っとけw」
俺たちはそんなやりとりをしながら、家の中へ戻った。

この日この時、俺の前で見せた奈央の表情はずっと忘れることができない。
ただ、この出来事があったから、俺の新しい夢への想いは確信へと変わりつつあった。

もう、昔を思い出して嘆いているだけの俺はいなかった。
前を向こう、これからの未来を考えよう、そんな想いがふつふつと湧いてきていた。

534: 1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/ 2015/11/18(水) 01:41:19.87 ID:xK8lMwpC.net
夕方になると分厚く空を覆っていた雲は立ち消え、
気持ちの良い夕空が広がっていた。

東の空は暗闇に溶け込み、西の空は橙色の波を帯びていた。
これならきっと花火大会もあるだろう、そんな風に思った。

544: 1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/ 2015/11/18(水) 21:04:03.92 ID:anNfxHXg.net
奈央はもしかしたら、夕飯の場に顔を出さないかと思っていたが、
おばさんに呼ばれて居間に下りると、その団欒の中に奈央がいた。

奈央は少し目を腫らしているように見えたが、
家族の中でいつも通りにご飯を食べていた。

ただ、テレビを見ながら力なく笑っている奈央の姿が、俺の胸を騒がせた。
自分でもよく分からないが、いつも通りにしている奈央を見て胸が傷んだ。

545: 1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/ 2015/11/18(水) 21:09:23.07 ID:anNfxHXg.net
夕飯を食べた後、部屋で窓を開けて扇風機を回して勉強をしていた。
すると、外から「ドドドン!」という音が聞こえて、
麓の方角で花火が打ち上がるのが見えた。

「こんなによく見えるんだな」と感激して、すぐに1階へ下りた。

俺「花火、始まりましたね!」
おばさん「そうね、よく見えるでしょ」
縁側では、おじさんとおじいちゃんがガラスの灰皿を置いて、二人でビールを飲んでいた。
テレビの前で、奈央が浮かない様子でスマホをいじっていた。

546: 1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/ 2015/11/18(水) 21:10:27.12 ID:anNfxHXg.net
おばさん「そういえば、今朝ぶどうが取れたんだけど食べて」
そう言っておばさんは居間のテーブルにぶどうを3房ほど出してきた。

俺「これって、もしかして隣の畑のやつですか?」
俺が興奮して聞くと、おばさんは
「そう。1君が奈央と一緒に水あげてくれたやつ」と言って笑っていた。

547: 1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/ 2015/11/18(水) 21:14:19.45 ID:anNfxHXg.net
目の前に出てきた瑞々しいぶどうを見て、少し嬉しくなった。

横にいた奈央に「な、これなんてぶどうなの?」と聞くと、
「巨峰だよ、一番美味しいやつー」と力のない返事をされた。

俺「これって、俺らが水あげたやつだよな?それが食べれるって凄くね!」
俺が興奮してそう言うと、奈央は笑っていた。
奈央「何いってんの、大げさだなぁ」

548: 1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/ 2015/11/18(水) 21:16:34.97 ID:anNfxHXg.net
でも俺は確かに、奈央と二人で水をあげた日の事を思い出していた。
あの時、奈央は大口を開けて笑っていた。

すごく楽しそうだったと思う。
ここに来てから、本当に色んな奈央の表情を見てきた。

大口を開けて楽しそうに笑う姿や、いたずらっぽくにやにや笑う顔、
バレーに対する真剣な眼差しや、落ち込んで下を向いていた表情、
そして土砂降りの中で見せた泣きっ面に、満面の笑顔…

その全てが俺の心に強く残っていて、その全てが奈央だった。
そして、その沢山の表情に、俺は動かされ、変わってきていた。

549: 1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/ 2015/11/18(水) 21:19:54.29 ID:anNfxHXg.net
でも今の奈央の表情は…いつもと変わらない様子を見せている奈央の表情は…
俺の心に残したくないな、と感じた。
そんな瞬間、奈央の口からぽろっと言葉がこぼれ落ちた。

奈央「花火…行きたかったな」

その言葉を聞いて、心臓が大きな音を立てたのが分かった。
色々と考えてしまう前に、すぐに口から気持ちを吐き出す。

550: 1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/ 2015/11/18(水) 21:38:41.15 ID:anNfxHXg.net
俺「じゃあ、行こうよ」
奈央「は?何いってんの?」
奈央が右手にぶどうの実を持ったままこちらを見た。

俺「行きたいんだろ。まだ全然間に合うじゃん。」
俺「一緒に行ってこようぜ」

奈央は俺から視線を外して下を向いた。
奈央「え、でも…」
奈央「1だって勉強があるし、もうこれ以上色々迷惑かけれないし」
俺「そうじゃないよ」
俺は強く言い切った。

551: 1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/ 2015/11/18(水) 21:50:27.06 ID:anNfxHXg.net
奈央「え?」
俺「俺が行きたいんだよ、俺が。だからさ、一緒に行こうよ」
奈央「はー…?」
奈央は返答に困ったららしく、目をきょろきょろさせた。

俺「行こうぜ。自転車で下ればすぐだろ。な、奈央」
奈央は少し「うー…」と首を傾げて考えてから答えた。
奈央「いいよ…」
俺はそれを聞いた瞬間、ぱっと心が晴れて「おっしゃ!」と口走ってしまった。

552: 1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/ 2015/11/18(水) 21:58:01.82 ID:anNfxHXg.net
奈央「いいけどさぁ…ちょっと待ってね」
俺「どうしたん?」
奈央「準備するから、待ってて。分かるでしょ」

そう言われて俺は落ち着かず、家の外の玄関の前に座って、
一人で遠くに打ち上がる花火を眺めていた。

ドン…パラパラ…という音が光から数秒遅れて聞こえてくる。
遠くで小さく瞬くだけの花火は、見ていて物悲しく感じた。

553: 1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/ 2015/11/18(水) 22:04:40.49 ID:anNfxHXg.net
リリリリ…という虫の声と、縁側で話すおじさんたちの笑い声も聞こえた。
蒸し暑くて、Tシャツ1枚とステテコという軽装だったのに汗が滲んだ。

俺はぼんやりと、考え事をしていた。
これから奈央はどんな格好で出てくるんだろうなぁとか、
奈央と二人で花火を見るのはちょっと照れるなぁとか、
これから、俺はどうしていこうか―とか。

554: 1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/ 2015/11/18(水) 22:20:50.08 ID:anNfxHXg.net
頭の中がこんがらがって、今何が起きているのかもよく分からなくなった。
しばらくすると、玄関の戸が開いて奈央が出てきた。

奈央「おまたせ…」
俺は奈央の姿を見て「おっ」と声が漏れた。

奈央はシンプルなカットソーとスカートで出てきて、長い髪に帽子を被っていた。
普段は部活着か制服、部屋着しか見たことがなかったので、
私服を着ている奈央は少しだけ垢抜けていて、新鮮だった。

555: 1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/ 2015/11/18(水) 22:54:57.86 ID:anNfxHXg.net
俺「なんだ、その帽子」
奈央「ハットだよ、ストローハット。バカ」

俺「それ被ってくのかw」
奈央「もう、あんま茶化すなら行かないよ」
そう言って奈央がむくれてしまったので、俺も
「嘘だよ、似合ってる」と気恥ずかしい事を言ってしまった。自業自得だ。

556: 1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/ 2015/11/18(水) 22:58:06.74 ID:anNfxHXg.net
俺「そんなにオシャレして行く必要あるか?」
奈央「だって学校の誰かに会うかもしれないし」
奈央「変な格好してるの見られたくないでしょ」
俺は確かにな…と思いつつ一つ引っかかった。

俺「え、でもさ。俺と一緒にいるとこ見られていいの?」
奈央「大丈夫でしょ別に。それに1は学校の人じゃないし、東京に戻っちゃうんだから」
俺「ああ…」

俺はそれを聞いて思い出してしまった。
最近は過去を振り返って落ち込む事もほとんどなくなっていた。
その全てが今の暮らしが充実していて、楽しかったからだ。

557: 1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/ 2015/11/18(水) 23:05:52.81 ID:anNfxHXg.net
でも、俺は夏が終わったら東京に戻らないといけない。
ここでこうしていられるのも、あと少しだけだった。

このまったく知らなかったど田舎の世界で、
のびのびと笑って、ぶどうなんか食べて、
奈央と一緒に過ごせるのも、奈央とバレーができるのも、あと少しだった。

これが終わったら、俺はどうなるんだろう?
俺にはまだそれが分からなかった。

563: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2015/11/19(木) 00:07:28.82 ID:WfXy2TOs.net
ここで東京か
こっちまで胸が苦しくなる
夏の終わりの切なさだな

564: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2015/11/19(木) 00:18:51.53 ID:tjcqY4Sx.net
頭の中でZONEのシークレットベースしか流れない

566: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2015/11/19(木) 13:01:35.78 ID:1SStI5U7.net
夏の終わりかぁ
せつない、ぐっとくる

587: 1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/ 2015/11/21(土) 23:13:25.99 ID:XQ9/mf6g.net
自転車を出そうとすると、おじさんに声をかけられた。
おじさん「お、どこに行くで」
俺「ちょっと、花火を近くで見ようと思ってw」

そうするとおじさんは酔っているのか、
「奈央が襲われないように守ってやってくれよ!あ、1君も何もすんなよ!」
と声をあげて笑っていた。

隣にいたおじいちゃんは神妙な面持ちで「気をつけて行くだぞ」と言ってくれた。

588: 1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/ 2015/11/21(土) 23:16:04.49 ID:XQ9/mf6g.net
俺はそれに「はい」と返事をし、奈央に「いくぞ」と声をかけた。

俺「奈央、早く早く!」
俺はそう言って、全力で自転車をこぎだした。
奈央が後ろから「待って!」と言って追いかけてきた。

もう何度か通った、あの下り坂を全速力で下っていく。
夜風が体に当たって、すごいスピードで街灯が過っていった。
俺は、奈央を花火大会に連れ去る漫画の主人公にでもなったつもりだった。

590: 1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/ 2015/11/21(土) 23:18:23.62 ID:XQ9/mf6g.net
自転車をこぐたび、心臓がどんどん高鳴るのを感じた。
それは近づく花火の音と呼応して、勢いを増していった。

坂道を全速力で下り終えると、平らな道へ出た。
横にはあの河が流れていて、
遠くの橋の上には屋台の灯りがいくつもともっていた。

大勢の人が灯りの中を歩いているようだ。

591: 1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/ 2015/11/21(土) 23:20:15.44 ID:XQ9/mf6g.net
ここまで来て、奈央が「やっぱりダメ」と言って急に止まってしまった。

俺「どうした?」
奈央「もしかしたら、会っちゃうかもしれないから…」
俺は少し黙って考えた。

俺「奈央がふられた人に…か」

592: 1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/ 2015/11/21(土) 23:21:50.89 ID:XQ9/mf6g.net
奈央「もし他の子と歩いてたら…私…」
奈央はそう言って、下を向いてしまった。

俺は悩んだ。このままだと、奈央を連れ出してきた意味がない。
それどころか、奈央をもっと傷つけてしまうだけかもしれない。

ただ、奈央は花火大会に来たかったんだ。
奈央のあの表情を変えたかった。
でも、俺には無理だったのか?

593: 1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/ 2015/11/21(土) 23:23:01.26 ID:XQ9/mf6g.net
瞬間、俺は閃いた。

俺「河川敷のひまわり畑に行こう」
奈央「え?」

俺「河川敷の横に、ひまわりが咲いてるの見たんだよ」
俺「あそこから見ようぜ、花火」

俺「ひまわり、好きなんだろ」

594: 1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/ 2015/11/21(土) 23:29:07.07 ID:XQ9/mf6g.net
俺がそう言うと、奈央は「なんでそんな事知ってんの」と苦笑いした。
俺「言ってたじゃん、もうけっこー前だけど」
奈央「そうだっけ」

そう言うと、奈央は笑って頷いた。
奈央「あそこなら人も少ないだろうし、いいけど」
それを聞いて俺は「よっしゃ」と言って自然と笑顔になった。

595: 1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/ 2015/11/21(土) 23:31:34.82 ID:XQ9/mf6g.net
俺「奈央、行くぞ」
そう言うと、奈央は「うん」と頷いて俺の後をついてきた。

道の脇に2台の自転車を置いて、河川敷の横のひまわり畑に向かって下りていく。
その間も、頭上には何発もの花火が大きな音を立てて打ち上がっていた。

花火が打ち上がるたびに、奈央が「わっ」と言って見上げるので、
足を踏み外さないか、俺は気が気じゃなかった。

そしてしばらく歩くと、小さなひまわり畑にたどり着いた。

597: 1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/ 2015/11/21(土) 23:38:52.71 ID:XQ9/mf6g.net
花火が打ち上がって、ひまわりたちを何色にも染めた。
それは不思議な光景だった。
元の色があの明るい黄色だとは、到底思えなかった。

俺「ここからも、よく見えるじゃんか」
そう言って横の奈央を見たが、黙ってただ花火を見つめていた。

598: 1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/ 2015/11/21(土) 23:47:12.02 ID:XQ9/mf6g.net
簡素な電灯しかないから、
花火が無い時はとても視界が暗くなった。

そう思うとまた花火が何発も打ち上がり、
横の奈央とひまわりを鮮やかに映し出した。

その景色をぼーっと眺めていると、奈央が不意にひまわり畑の中に駆け出した。
俺「ちょっと、どこ行くんだよ」
奈央「どこにも行かないよ」

599: 1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/ 2015/11/21(土) 23:51:19.24 ID:XQ9/mf6g.net
俺は急いで奈央を追いかけた。
ひまわり畑の中に佇んでいる奈央を見つけて、安心する。

俺「暗いし、危ないぞ」
奈央「ん、分かってる」

奈央「近くで見れて良かったな」
俺「そっか、それなら良かった」
ドン、ドン、パラララ…
その間にも、頭上ではいくつもの花火が咲いて散っていった。

600: 1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/ 2015/11/21(土) 23:55:30.91 ID:XQ9/mf6g.net
奈央「あのさ」
俺「何」
花火のせいもあってか、会話のやりとりが簡潔になる。

奈央「恋なんて、花火みたいなもんだよね」
俺「え、なんだそれ」
奈央「私の気持ちも、散って消えていったから」

ちょっと茶化したい気持ちも湧いたが、
奈央が真剣に話しているのが分かったので、
俺も真剣に答えることにした。

601: 1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/ 2015/11/21(土) 23:56:34.33 ID:XQ9/mf6g.net
俺「あんなに綺麗に咲いて散ったの?」
奈央「ううん…全然ちがう」

奈央「あれだけ綺麗に咲いてれば…散らなかったかもね」

奈央はそう言うと、かぶっていたストローハットを目深にかぶり直した。
そんな奈央を、頭上の大きな花火が照らした。

602: 1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/ 2015/11/22(日) 00:01:33.14 ID:AdKJxWeq.net
俺「なあ、奈央」
奈央「…なに」
奈央はストローハットで目元を隠したまま答えた。

俺「散っちゃったなら、いいじゃんか。綺麗さっぱり、切り替えられる」
俺「ずーっと心に残ってるほうが大変だぞ」
俺はまるで自分に語りかけるように、奈央に言った。

603: 1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/ 2015/11/22(日) 00:05:29.59 ID:AdKJxWeq.net
俺「次は、ひまわりみたいな恋をすればいい」
奈央「なに、それ」
俺の言葉を聞いて、奈央が笑って顔を上げてくれた。

俺「ひまわりは、消えないからな」
奈央「でも、夏が終わったら枯れるよ」
俺「枯れないようにすればいいさ」

奈央は「いみわかんないw」と文句を言っていたが、笑顔が戻ってきて、
俺は心が温かくなるような、安心するような、よく分からない気持ちになった。

605: 1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/ 2015/11/22(日) 00:12:58.03 ID:AdKJxWeq.net
俺「それに、もう一つ大事な花火がある」
奈央は「なにそれ」と言いたげな目でこちらを見たが、すぐに気づいて、

「分かってる、絶対勝つんだからね」と得意げな表情を浮かべた。

さっきまで帽子で顔を隠していたくせに、と笑ってしまいそうになったが、
奈央の様子が元気になってきて、俺はとても嬉しくなった。

606: 1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/ 2015/11/22(日) 00:14:13.34 ID:AdKJxWeq.net
俺「明後日だな、夏季大会」
奈央「うん、そうだね」

俺「悔いがないように、最後まで頑張ってな」
奈央「頑張るよ、絶対。最後の最後まで」

頭上で、大きな金色のスターマインが夜空のカーテンのように広がっていた。
奈央の花火が、部活の集大成が、綺麗に咲きますように―
俺はそんなことを願っていた。

607: 1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/ 2015/11/22(日) 00:15:21.26 ID:AdKJxWeq.net
今日はここまでにします。
恐らく、次に書きに来るときに完結すると思います。

あと少しですが、皆最後までお付き合い頂ければ、嬉しいです。
よろしくね。

609: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2015/11/22(日) 00:34:26.70 ID:5wQ7Ysjm.net
次で完結なんだな…

なんか寂しい気分だ

610: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2015/11/22(日) 00:36:16.09 ID:LMtk8UFV.net
奈央の最後の試合を通して、>>1にどんな変化が起きるんだろうね!
次回、「忘れない夏」の秘密が明かされる!
待ちきれない!

611: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2015/11/22(日) 01:38:01.08 ID:uHVAjfY4.net
おつかれさま♪
もう最期かー

613: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2015/11/22(日) 12:43:25.21 ID:X7f1dezK.net
最近の楽しみだったんだよなぁ
ここに来るといつでもあの時の夏に帰れる気がした
もう終わっちゃうのか…さみしいわ


管理人『夢を捨てた俺に忘れない夏が来たpart1夢を捨てた俺に忘れない夏が来たpart5

引用元: 夢を捨てた俺に忘れない夏が来たhttp://hayabusa3.2ch.sc/test/read.cgi/news4viptasu/1446046979/

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